人目もござりますし、なにやかやとおまぎれになることもござりましたのに、ひねもすうすぐらいお部屋のおくにとじこもっていらしってしょざいなくおくらしなされましては、みじかい冬の日あしでさえもなか/\長うござります。しぜんおむねのなかには亡き殿さまのおすがたがおもいうかべられ、あゝいうこともあった、こういうこともあったと、かえらぬむかしをおしのびなされて悲歎にくれていらっしゃいました。いったいおくがたは武門のおうまれでいらっしゃいますから、なにごとにも御辛抱づようござりまして、めったと人にふかくのなみだをおみせになることはござりませなんだが、もはやその頃はおそばの衆と申しましてもわたくしどもばかりでござりましたので、はりつめたおこゝろもいっときにおゆるみなされたのでござりましょう。いまこそほんとうのかなしみにおん身をゆだねられ、ひとけのない奥の間で何をおもい出されましてかしのびねに泣いていらっしゃるのが、ふとお廊下を通りますときに耳についたりいたしまして、とかくお袖のしめりがちな日がおおいようでござりました。 そういう風にして一とゝせ二たとせはゆめのようにすぎましたなれども、そのあいだ、春は花見、あきはもみじがりのお催しなど、お気ばらしにおすゝめいたしましても、「わたしはやめます、おまえたちで行っておいで」と仰っしゃいまして、御じぶんは浮世のほかのくらしをなされ、たゞひめぎみたちをお相手になされますのがせめてものお心やりと見えまして、御きげんのよいおわらいごえのきかれますのはそんなときばかりでござりました。さいわい三人のお子たちはどなたもおたっしゃにおそだちなされ、おんみのたけも日ましにおのびになりまして、いちばんおちいさい小督《こごう》どのなども最早やおひとりであんよをなされたり、かたことまぜりにものを仰っしゃったりなされましたので、それをごらんあそばすにつけても亡き夫《おっと》が御ぞんしょうであられたならばと、またおんなげきのたねでござりました。べっしておふくろさまとしましては、まんぷく丸どのゝ御さいごのことをお忘れなく、いつまでもおいたみなされていらっしゃいましたが、なにぶん御自分のあさはかさから現在のお子を敵におわたしなされまして、あゝいうおかあいそうなことになったのでござりますから、だました人もうらめしく、だまされたわが身もくちおしく、なか/\おあきらめになれなかっ