シク感ジラレタ※[#コト、1-2-24]モ事実デアル。コウイウ不思議ナナマメカシサハ、彼女ガ和服ヲ着テイタノデハ現ワレナイ。僕ハ向ウヲ歩イテ行ク妻ノ後姿ヲ見送リナガラ、―――分ケテモスカートノ下カラ踝ノ辺ノ歪曲美《わいきょくび》ニ見惚レナガラ、今夜ノ※[#コト、1-2-24]ヲ考エテイタ。………  四月十六日。………午前中錦へ買い出しに行く。私が自分で食料品を買い漁《あさ》りに行く習慣も、もう長いこと怠りつづけていたのであったが、―――近頃は万事婆や任せにしていたのだが、それでは何だか夫に対して済まないような、主婦の勤めをおろそかにしているような気がしていたので、久しぶりに出かける。(でも私には買い出しなんぞよりもっと大切な勤めがあり、夫を喜ばせるための忙しい仕事が控えているので、なかなか錦へ行く暇などはなかったのだ)行きつけの八百屋《やおや》の店で筍《たけのこ》と蚕豆《そらまめ》ときぬさやを少々買う。筍を見たので思い出したが、今年はとうとう花の咲いたのも知らないうちに過してしまった。去年はたしか敏子と二人で、疏水《そすい》のふちを銀閣寺《ぎんかくじ》から法然院《ほうねんいん》の方へ花見をして歩いたことがあった。もうあの辺の花も残らず散ったことであろう。それにつけても今年は何という慌《あわただ》しい落ち着きのない春を送ったことか、あッという間にこの二た月三月が夢のように過ぎてしまった。………十一時に帰って来て書斎の花を活けかえる。今日はマダムが庭にあるのを届けてくれたミモザの花にする。夫はつい今しがた起き出したらしく、私が花を活けている時にようやく二階へ上って来た。朝は早起きの夫なのであるが、近頃はよくこんな風に寝坊をする。「今お起きになったの」と云うと、「今日は土曜だったのか」と云ってから、「明日は朝から出かけるんだろうね」と、まだ睡気《ねむけ》の残っているような薄寝惚け声で云った。(その実寝惚けているのではない。大いに気に懸《か》けているのである)私は肯定とも否定とも付かない返辞を、口の内でもぐもぐと云っただけであった。………  二時頃、玄関に「御免下さい」という声がして見知らぬ男がはいって来た。石塚《いしづか》治療院から参りましたと云う。指壓の治療師だそうである。誰《だれ》もそんな者を頼んだ覚えはないはずだがと思っていると、婆やが出て来て「旦那《だんな》様が呼ん