昏睡シテイルカ、眼覚メテイルカ、眠ッタフリヲシテイルカモ問題デナクナリ、僕ガ僕デアルカ木村デアルカサエモ分ラナクナッタ。………ソノ時僕ハ第四次元ノ世界ニ突入シタトイウ気ガシタ。タチマチ高イ高イ所、※[#「りっしんべん+刀」、第3水準1-84-38]利天《とうりてん》ノ頂辺《てっぺん》ニ登ッタノカモ知レナイト思ッタ。過去ハスベテ幻影デココニ真実ノ存在ガアリ、僕ト妻トガタダ二人ココニ立ッテ相擁シテイル。………自分ハ今死ヌカモ知レナイガ刹那《せつな》ガ永遠デアルノヲ感ジタ。………  三月十九日。………昨夜のことを念のために委《くわ》しく書き留めておこうと思う。昨夜は夫の帰りが夜になることが分っていたので、「私たちも映画に出かけるかも知れない」と、私は前もって夫に断っておいた。四時半頃に木村さんが誘いに来たが、敏子は五時頃おくれて来た。「遅いじゃないか」と云うと、「時間が半端だから食事を済ましてからの方がよくはなくって。ママ、今日は私がサーヴィスするから関田町で御飯を上ってよ。まだ一遍も私の所で落ち着いたことはないじゃないの」と敏子が云った。「かしわを百目買うて来たわ」と、彼女は鶏肉や野菜や豆腐を両手に持って木村さんと私を連れ出したが、「これはここのを寄附して貰うわ」と、まだ半分以上残っていたクルボアジエの罎《びん》も提《さ》げて出て来た。「それは止した方がいいわ、今日はパパが留守だから」と私は云ったが、「でもせっかくの御馳走《ごちそう》にこれがないのは淋《さび》しいから」と云うのだった。「御馳走なんかいらないわよ、これから映画を見に行くのにもっと簡単なものがいいわ」と云ったけれども、「すき焼の方がかえって簡単よ」と敏子は云った。ピアノの前に二月堂の卓を二つつないで、瓦斯《ガス》のカンテキ(鍋《なべ》やカンテキは母屋から借りて来たのである)ですぐに始めたが、具《ぐ》がいつもより分量が多く、種類もたくさん揃《そろ》えてあるのに驚いた。葱《ねぎ》、糸蒟蒻《いとごんにゃく》、豆腐はよいとして、生麩《なまふ》、生湯葉《なまゆば》、百合根《ゆりね》、白菜等々、―――敏子はそれらをわざと一度に運んで来ないで、ときどき、少しずつ、なくなると後から後からと附け足した。かしわも百目ではなかったような気がした。自然、なかなか御飯にならないでブランデーが進行した。「お嬢さんがブランデーのお酌をなさ